【能登SDGsフィールドレポート第15号】能登SDGsラボの壁

 能登SDGsラボにある「壁」について話したい。

…などというと意味深に響いてしまいそう。

 

だが、比喩でなく、文字通りの壁の話である。

 

能登SDGsラボの事務局があるのは金沢大学能登学舎。

旧・小泊小学校の校舎を再利用した地域活動の拠点施設である。

 

かつて小学校の保健室だった小さめの部屋がラボの事務局。

2018年10月のラボ開所と同時に入居させていただいた。

小学校が閉校となってから既に10年以上経っていた。

保健室の名残りは、壁に作り付けられた薬品棚に見られた。

 

ベッドを仕切るためと思われるパーティションも残っていた。

卒業生のなかには、保健室に思い出の多い人もいるかもしれない。

 

保健室の面影をなくしてしまうのは忍びないが、やむを得ない。

新しい目的に合った仕様にする必要がある。

 

一番の問題は、入り口から見て右手の壁だった。

一部が工事途中のようにコンクリートむき出しの状態。

ラボの事務局として使うために壁の改修が懸案となった。

 

どうせ改修するなら、多少なりとも物語性のある壁にしたい。

そこで、頼ったのが今井工務店の今井誠さん。

いつもお世話になっている地元のプロだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今井さんが示した案は、こちらの予想を完全に超えるものであった。

杉の横板を重ねる「下見板張り」をしようというのだ。

これは珠洲の伝統的な木造家屋の外壁の工法。

珠洲の中でも特に蛸島町(たこじままち)で多く見られるそうだ。

 

それにしても、ラボの壁は屋内。

そこに外壁を再現するというのは何と奇抜な発想だろう。

面白い!

関係各所と調整のうえ、この案を実行に移すことが決まった。

 

今井誠さんは能登里山里海マイスター(2018年修了)でもある。

里山とつながる住まいづくり。

そして、そのための地域工務店の役割。

それが、今井さんの卒業研究のテーマであった。

奥能登で採れる木材を地域内の建築で積極的に用いること。

それによって、森林管理と林業のサイクルの地域内循環を目指す。

いわゆる「川上から川下まで」すべてがつながることになる。

 

しかし、まず杉材の確保をどうするか?

ここで大きな協力者たちが登場した。

まず、NPO法人能登半島おらっちゃの里山里海(以下「おらっちゃ」)。

能登学舎のなかでラボの隣に事務局を構える先輩組織である。

 

おらっちゃが管理する保全林から杉を提供してもらうことになった。

そして、2018年11月8日。

爽やかな晴天のもとで伐採がおこなわれることになった。

おらっちゃの頼もしい会員さんたちが出動!

 

さらに、能登里山里海マイスターネットワークの部会「チーム林業」。

このなかから林業のプロであるマイスターも助っ人として駆けつけてくれた。

 

 

 

 

 

 

こうして4本の立派な杉の丸太が切り出された。

このうち最も太い木の年輪を数えてみると、なんと樹齢100年以上!

 

 

 

 

 

 

 

 

※伐採の動画はこちら↓

 

その後、同じ小泊集落内にある新出製材所で乾燥と製材。

すべては能登学舎の近隣で事足りている。

木材の生産地から消費地までの距離(ウッドマイレージ)は何と数百メートルのみ!

紛れもない地産地消である。

 

材料が揃ったところで工事開始。

まず、保健室時代の作り付けの薬品棚の撤去。

次に、床面の補修。

そしていよいよ壁本体。

枠の組み立て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

枠ができると、その表側に「顔」となる下見板張り。

きれいに張り上がった。

杉の香りに癒される。

が、まだ終わりではない。

 

 

壁の一部に40センチメートル四方ほどの正方形の穴を空ける。

壁全体のなかで不規則に2か所。

それぞれの穴の四面の縁を整えれば、素敵な展示棚となる。

今井さんによると「ニッチ棚」と呼ばれるそうだ。

隙間好きにはたまらない響き。

 

外壁としての下見張りは、雨だけでなく潮風にも強い工法。

そしてそれと対になるのが屋根の黒瓦。

光沢のある黒瓦は、積もった雪を早く溶かして滑り落とすことに優れている。

海沿いの雪国に適した構造になっているのだ。

両方揃ってこの地域の伝統的木造家屋の特徴となっている。

 

能登SDGsラボの壁には残念ながら瓦は付けられない。

しかし、ニッチ棚に1枚の瓦を展示することにした。

こうすることで、この壁の物語を伝えやすくなる。

 

展示する瓦も今井工務店で保管されていたものを調達していただいた。

かつては能登の産業だった瓦製造。

いまでは能登ではまったく生産されていない。

現存する貴重な一品だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壁の入口側の部分は、平らな板で全面を黒く塗ってもらった。

黒瓦を連想させる意味もあるが、白木と組み合わさると締まった印象になる。

つや消しの塗装で黒板の役目も果たす。

床から天井の高さまで縦長の大きな黒板だ。

 

ジャーン。こうして壁が完成。

能登SDGsラボには借り物や再利用のものが多い。

それはそれで意味のあることである。

 

そうしたなかで、この壁は最も独自性と物語性の高いものである。

これぞ地域工務店の本領発揮。

今井工務店さんでなければできない作品。

床補修の左官屋さんや、黒壁仕上げの塗装屋さん。

これらの職人さんたちの力も欠かせなかった。

 

おらっちゃや珠洲市役所ほか、協力者は他にも多くいる。

見えないところでお知恵とお力を貸してくれた。

この壁は、みなさんのご協力の結晶。

この場を借りて心から感謝したい。

ありがとうございました!

 

北村 健二(コーディネーター)

 

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日々の活動のなかで北村個人が感じることを共有するための媒体。

組織の立場や見解を示すものではありません。

 

 

追記

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